国際シンポジウムと座談会について


会員各位

一橋大学の飯尾様より下記のシンポジウムの案内がございましたので、お知らせいたします。

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21世紀に入ってから、スペインは400万人以上の移民を受け入れ、特にラテンアメリカ諸国出身者を多く受け入れてきました。その背景には、帝国以来の関係やラテンアメリカ諸国がフランコ政権からの亡命を受け入れてきた歴史的経緯があり、この相互関係は現代ラテンアメリカを考察するうえで重要な要素をなしています。他方、このスペインの経験はブラジルやペルー出身者が移民コミュニティを形成し、今後さらに移民の受け入れが拡大する日本においても、重要な参照点になりうると考えます。そこで、ラテンアメリカ移民研究の世界的権威であるアレハンドロ・ポルテス氏、スペインの移民研究の第一人者であるホアキン・アランゴ氏等を招聘することで、以下二つのイベント(①一橋大学における国際シンポジウム、②インスティトゥト・セルバンテスにおける座談会式イベント)を開催致します。
 その際、①ではラテンアメリカ出身の移民研究者アンジェロ・イシ教授(武蔵大学)が登壇し、②では日本におけるラテンアメリカ出身の特に移民1.5世代にあたる研究者の参加を呼びかけ、上記のイベロ・アメリカ地域出身の代表的研究者との対話を目指しています。
 それぞれのイベントの詳細は以下の通りです。ご関心のあるかたは、是非奮ってご参加ください。

① 一橋大学における国際シンポジウム
2019年11月16日(土) 国際シンポジウム
「後発的移民受入国の国際比較――21世紀の移民受入れ政策をめぐるスペインの経験と日本のこれから」
一橋大学・東キャンパス・東2201   *日英同時通訳付

*要事前登録:https://forms.gle/n63AqbYEnTbb7v4dA から申し込みをお願いします。

2018年の出入国管理法の改訂は、日本の実質的移民政策の新段階への可能性を開いた。だが、それを支えるべき原則とその全体像は未だにようとして見えてこない。その具体的制度化は、各官庁と産業で進行中であり、課題は山積したままといえる。今や、移民の受入れと社会統合を図る制度設計と政策に関する、多角的で公共的な熟議が求められている。このためには、既存の日本での経験を踏まえつつも、それを国際的に相対化して政策構想を行う必要があるだろう。高齢化がすでに進行した段階で、遅れて移民受け入れを開始し、急激に受入数を増やしたスペインの経験は、現在の日本と大きく共通している点で重要である。急激な受入れを経験したスペインが、ごく最近まで大きな紛争を回避しえたのは、その積極的な統合政策による部分が大きく、その政策実践から学ぶべき点は多い。
 従来、日本での移民政策についての議論では、英国、フランス、ドイツなどの移民受入れの先発国や合衆国などの移民国の政策が政策形成に参照されてきた。このシンポジウムにおいては、21世紀の最初の10年400万人の移民を受け入れ世界第2位の受入れ国となったスペインとの比較を通じて相互に、その経験を語り、学ぶことを通じて、政策議論に一石を投じることを意図している。しかし、主催者は両国が単に統計的、時期的な類似性を超えて「後発的移民受け入れ国」としての共通条件を持っていると考える。即ち、国際的な先発移民受入れ国群の政策を学習する機会を持つとともに、先発国で起こる様々な事件や紛争の影響も受けながら政策の形成と実践を行ってきた点で共通の歴史的構造条件を持っている点である。しかし、この2カ国の共通性を認識し、その共通課題と政策の展開の異同について検討する機会は、未だかつてかつてなかった。
 この点を克服するため、このシンポジウムでは、スペインの移民政策を設計した中心的研究者であるアランゴ教授、スペインの移民状況を欧州全体の文脈に位置付けて分析を展開するゴンサレス氏、そして反差別戦略の設計を進めてきたピニョル氏を招いて、日本の該当分野の研究者との対話を通じて日本の状況との比較を試みる。さらに、地域を超えた2カ国の研究者を媒介する意味で、国際的な移民に関する理論および経験研究の第1人者であり、両国の移民政策と状況に関心を持つアレハンドロ・ポルテス教授を基調講演者として迎え、スペインの政策と日本の現状とを比較することで、日本の政策形成者、研究者に新たな視座を提供し、創造的な政策議論の活性化を図る。

参考文献論文:
小井土彰宏 「後発的移民受け入れ国スペインに学ぶ政策革新ーー分断された政策空間の統合をめざして」『中央公論』 第133巻第6号, p.68-75, 中央公論社, 2019.5

■プログラム
11月16日(土)10:00-18:10(開場9:30)

10:00 -10:15
 オープニング *全体司会 橋本直子(一橋大学)
 趣旨説明    小井土彰宏(一橋大学)

10:15-11:45
 基調講演1 「労働移民と世界経済-スペインと日本の比較」
       アレハンドロ・ポルテス(マイアミ大学、プリンストン大学)
 基調講演2 「スペインー移民・統合に関する例外的な経験」
       ホアキン・アランゴ(マドリード・コンプルテンセ大学)
 質疑応答

11:45-13:00
 昼食休憩

13:00-14:40
【第1部】 スペイン:移民労働者の包摂と通文化主義的受入れ政策
*司会 堀井里子(国際教養大学)
1.「EUにおける長期移民に対比しての短期移民の促進政策の矛盾と障害―近年のスペインの経験を焦点として」
  アンパロ・ゴンザレス(スペイン高等科学研究院)
2.「統合と包摂の多様な経路――重層的政治構造からみたスペインの経験」
  ジェマ・ピニョル(ポンペウ・ファブラ大学)
 *コメンテーター:伊藤るり (津田塾大学)

14:55-17:00
【第2部】 日本:入管法改定が生み出す新たな労働移動と多文化共生の残された課題
1. 「序論: 実質的移民政策の展開と新・入管法の課題」
   小井土彰宏
2. 「移動の時代における労働力不足から技能形成へ―日本の建設業界の事例」
   惠羅さとみ(成蹊大学 アジア太平洋研究センター)
3. 「介護労働市場の危機と移住産業――在留資格の多元化と利権構造」
   定松文(恵泉女学園大学)
4. 「“日系人”の視点から見た移民/統合政策――帰国支援事業と日系4世ビザに注目して」
   アンジェロ・イシ(武蔵大学)
 *コメンテーター:アレハンドロ・ポルテス、ホアキン・アランゴ

17:10-18:10 
【第3部】スペインと日本:比較から新たな対話へ
  *司会 橋本直子
   全体討論

シンポジウムの詳細につきましては、
http://www.soc.hit-u.ac.jp/~trans_soci/index.html をご参照ください。
【主催】:国際社会学研究会
【共催】:科研費プロジェクト 基盤研究A「移民受入れ国-送出し国の政策相互連関」
     一橋大学・大学院社会学研究科
【助成】:国際交流基金、三菱財団
【後援】:移民政策学会
お問い合わせ:trans_soci@soc.hit-u.ac.jp

②インスティトゥト・セルバンテスにおける座談会式イベント
Instituto Cervantes Coloquio 
「新たなる移民国家スペインとラテンアメリカ」
日時:11月18日(月)19時~
場所:インスティトゥト・セルバンテス東京 地下一階 オーディトリアム(JR市ヶ谷から徒歩10分)
スペイン語・日本語同時通訳付き

スペインは21世紀に入り、400万以上の移民を受け入れ、2007年には500万人以上の移民が滞在する社会となった。その移民は、モロッコ、ルーマニア、サハラ以南アフリカと多様であるが、ペルー、エクアドルをはじめとするラテンアメリカ諸国からの労働者も多くを占めている。スペインはラテンアメリカ移民の受け入れに関して、合衆国に比して相対的に良好な関係を気付いてきた。日本の移民コミュニティの中でもブラジル人ペルー人の比重はいまだに大きいが、そこには大きな問題点もある。ラテンアメリカ移民に関して世界的な権威であるA. Portes (Univerisdad Princeton)、スペインの移民研究の中心的研究者J. Arango (Universidad Complutense)、短期労働移民と長期移民の差異を問い直すAmparo Gonzales(CSIC)、バルセロナをはじめとするInterculturalismo (間文化主義)について詳しいGemma Pynol(Universidad Pompeo Fabra)等の参加をえて、スペインでのラテンアメリカ移民の受け入れの背景と現状に関して議論し多文化的スペイン社会の新しい側面を知り、日本におけるラテンアメリカ移民受け入れの参照例となることも期待したい。